日本第四紀学会
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だいよんき Q&A

炭素14年代測定の際に同位体比の標準物質としてベレムナイトの化石が使われるのはなぜでしょうか?

質問者 : 公務員(岡山県)

 

 同じ元素で,質量の違うものを同位体と呼んでいます. 元素名は,原子核の陽子数で決まりますが,中性子数が違うと同じ元素でも質量数は違います. 炭素の場合,質量数が12,13,14の同位体が存在しています. これらの同位体の存在比は,炭素12(12C)が98.89%,炭素13(13C)が1.11%で, 炭素14(14C)は1兆個のうち数個程度しか含まれません. このうち,12Cと13Cが安定同位体と呼ばれるもので,名前の通り,安定して存在しています. 一方,14Cは放射性同位体と呼ばれるもので,ベータ壊変によって窒素14(14N)に少しずつ変わります. 14C年代測定では,試料中の14Cの残量を測って,このベータ壊変の速度(Libbyの半減期:5568年)を利用して年代値を算出します.

 試料の14C濃度は,炭素を取り込むときの同位体分別効果で同位体比が変化するため,安定同位体比である12C/13Cを測定して, これを補正する必要があります.この12C/13C同位体比測定では,僅かな同位体比の変動をとらえやすくするために, 先に述べた存在比ではなく,標準物質に対する同位体比の千分率偏差(‰,パーミル)で表します. お尋ねのベレムナイト(箭(や)石,Belemnite)の化石(CaCO3)は,この安定同位体比を測定するための標準物質です. 南カロライナ州ピーディー層(Peedee formation)産ベレムナイトが用いられ, 12C/13C同位体比は「δ(デルタ)13CPDB」と表記されます.1950年ごろに,ユーリー(Urey,シカゴ大学)らは, 酸素同位体による古環境復元に取り組む中で,炭酸塩硬組織のうち天然の堆積環境で安定な方解石質で, 緻密な殻をもつベレムナイトを標準物質として選びました. ベレムナイトはイカに似た形態で,石炭紀から白亜紀の地層から,イカの甲にあたる硬組織が化石として産出します.

 なお,14C濃度測定には,アメリカ国立基準技術研究所(NIST)から提供されているシュウ酸などが標準物質として使用されています. この標準物質の14C濃度にある常数をかけて,14C年代の基準である1950年に相当する仮想的な14C標準濃度を得ています.


[参考図書]

  • シェリダン・ボウマン(北川浩之訳)(1998)年代測定(大英博物館双書B古代を解き明かす).學藝書林,120p.
  • 今村峯雄(1991)年代をはかる(はかるシリーズ).日本規格協会,93p.
  • 中村俊夫(1999)放射性炭素年代測定法.長友恒人編「考古学のための年代測定学入門」,古今書院,1-36.
  • 酒井 均・松久幸敬(1996)安定同位体地球化学.東京大学出版会,403p.

回答者 : 奥野 充
2009年9月14日掲載

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