日本第四紀学会
English

2005年度研究委員会活動報告

2005年度は以下の5委員会が活動をおこなった。

層序・年代学研究委員会 (委員長:三田村宗樹)

 INQUAの5つのCommission の1つであるCommission on Stratigraphy and Geochronology(委員長:Prof. Brad Pillans)では、第32回IGC(2004、イタリア)での中/前期更新世境界の国際模式層断面及びポイント(GSSP)の設定にあたって、提案のあった3つの候補地(Montalbano Jorica section とValle di Manche section:いずれも南部イタリア;千葉セクション:日本)から選定する方向で、議論がなされている。ヨーロッパでの模式地設定が優勢な状況にはあるが、千葉養老川セクションが候補地として残されており、これに対する日本側の対応が必要となっている。すでに、2004年IGCでの日本提案は諸資料が充実したものとはなっているが、今後、本研究委員会を核にして、さらなる資料充実を図る予定である。

 また、Commission on Stratigraphy and Geochronology 下位の小委員会としてSubcommission on Asian Quaternary Stratigraphy(委員長:Dr. Nadya Alexeeva、副委員長:三田村宗樹)が組織されている。この小委員会の2003-2007 Inter-Congress periodにおける活動として、2006年8月28日〜9月3日の間、Stratigraphy, paleontology and paleoenvironment of Pliocene-Pleistocene of Transbaikalia and interregional correlationsをテーマにロシアのウランウデ市において国際シンポジウムが開催される。

 本シンポジウムでは,

  1. Baikal Region as a Model of Past Global Changes
  2. Quaternary Geology and Stratigraphy: Global and Regional Aspects
  3. Mannals as a Key to Interregional Correlations
  4. Quateranry Environment in the Framework of Global Climate Changes

の4つの主だったセッションが持たれ、口頭発表33件、ポスター発表34件が予定されている。本シンポジウムに対して日本からは4件の発表が予定されている。(三田村宗樹・熊井久雄)

 このページのトップへ

海岸・海洋プロセス研究委員会 (委員長:海津正倫)

 2005年8月にインドネシア国パダンで開催された"International Meeting on The Sumatran Earthquake Challenge"(LIPI・日本学術振興会共催)、2005年9月に開催されたIGCP-495"International Conference on Quaternary Land-Ocean Interaction"、2006年1月にブルネイで開催されたIGCP-475"International Conference on Deltas" などにメンバーが参加し、研究成果を国際学会等で発信した。

 また、2006年8月にはタイ国において、日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業、日本第四紀学会海岸・海洋プロセス研究委員会の共催のもとに"International Conference on the Mitigation of Natural Disasters in the Tsunami Affected Coastal Regions of tropical Asiaを開催する予定で、目下準備を進めている。

 このページのトップへ

テフラ・火山研究委員会 (委員長:鈴木毅彦)

 INQUA Commission on Tephrochronology (COT)は、1991年INQUA 北京大会で承認されたCommission であり、1987年に設立されたThe Inter-Congress Committee on Tephrochronology (ICCT)の流れをくむものであった。1995年INQUA ベルリン大会でのCommission on Tephrochronology and Volcanism (COTAV)への名称変更後も引き続き活動してきた。しかし2003年リノ大会をもってCOTAVは解散し、現在、COTAVは新しく組織された委員会であるStratigraphy and Chronology のサブユニット(INQUA Sub-Commission for Tephrochronology and Volcanism: SCOTAV)として位置づけられている。SCOTAV の国内窓口はテフラ・火山研究委員会である。

 2005年度におけるテフラ・火山研究委員会の活動として、2004年度開催のシンポジウム「関東平野の形成史─最近のテフラ・地下地質・テクト二クス研究に基づくその探究─」(2005年3月13日)を記録にとどめるため、月刊地球(海洋出版)の通巻319号特集号「関東平野の形成史─最近のテフラ・地下地質・テクト二クス研究─」を2006年1月1日付けで刊行した。総論を含め計9本の論文が掲載されたが、1本を除きいずれもシンポジウム講演に基づくものである。

 2005年7月31日〜 8月8日にカナダのユーコンにおいて、INQUA Sub-Commission for Tephrochronology and Volcanism (SCOTA V)による、International Field Conference and Workshop on Tephrochronology and Volcanism "Tephra Rush 2005" が開催された。2004 年活動報告の研究委員会報告として掲載できなかったので以下に簡単に記す。詳細は第四紀通信、12巻6号にある。同集会ではカナダ、米国、アルゼンチン、日本、ニュージーランド、オーストラリア、台湾、インドネシア、英国、オランダ、スウェーデンから約40名が参加し、日本からは8名が参加した。会期中、SCOTAVの開催地に関して日本での開催が話題になった。このため、国内の対応委員会であるテフラ・火山研究委員会として、2005年8月27日(日本第四紀学会島根大会を利用)に12名の委員会関係者が参集し、日本招致の可能性について検討した。

 このページのトップへ

ネオテクトニクス研究委員会 (委員長:吾妻 崇)

 今期は、糸魚川−静岡構造線活断層系を対象とした野外集会の開催、ならびにINQUAScale Project に関する日本での試験的検討とその報告を行った。

 野外集会では、糸魚川−静岡構造線における最近の知見を現地観察を通じて知ることを主な目的とし、2006年6月3日(土)から4日(日)にかけて開催した。参加者は案内者を含めて10名であった。1日目は「大峰帯の構造と形成史」を主テーマとし、大峰帯を構成する地層を露頭で観察しながら、大規模地すべりの発生時期や構造線以西を起源とする礫の分布からこの地域の構造発達について検討した。2 日目は、糸魚川−静岡構造線活断層系の活動履歴を主テーマとし、神城付近から牛伏寺にかけて、トレンチ調査や測量調査が行われた場所を巡り、変位地形の様子を観察するとともに、活動時期や地震時の変位量について議論した。

 INQUA Scale Projectでは、地表地震断層や液状化、地すべり等の地質現象に基づいて地震の大きさを評価するための分類基準を検討している。現在、15の国および地域が協力してEEE(Earthquake Environment Effects)データベースを作成しているところであり、日本では有志協力者により2004年新潟県中越地震等のデータを試験的に収集、整理している。今期は、この計画と関連して開催されたセッション(EGU:2006年4月)ならびに国際機関(IAEA:2006年5月)のワークショップにおいて、日本における作業成果を報告した。

 このページのトップへ

高精度14C年代測定研究委員会 (委員長:中村俊夫)

 2000年第四紀学会歴博大会におけるシンポジウム“21世紀の年代観−炭素年から暦年へ”およびその際に発信された“佐倉宣言”を受けて、高精度14C年代測定に関する最先端の研究状況や基本的な知識を学会員に対して普及する事を目的として研究委員会が設置された。2005年には、5年間の活動を終えたが、この間の2003年3月に歴史民俗博物館の研究に基づいて“弥生時代の始まりがBC10 世紀に遡る”ことを強く示唆する14Cデータが発表されたことから考古学研究者を巻き込んで議論が深まってきた。この状況を踏まえて、新規に高精度14C年代測定研究委員会を設置することが承認された。国際対応としては、加速器質量分析国際会議やRadiocarbon 国際会議の案内を学会員に流しており、本年4月の英国オックスフォード大学にて開催された第19回Radiocarbon国際会議には30名を超える日本人研究者の参加があった。さらに、I N Q U A の研究委員会“stratigraphy and chronology”と連携を図り第四紀試料の年代測定、編年の研究を活発化する努力を進めている。

 委員会の活動として、2006年3月21日に第3回研究委員会を第四紀学会主催の公開シンポジウムとして東京大学にて開催した。参加者は、約50 名であった。この委員会では、2005年に公開された最新版の”14C年代較正データ”(IntCal04)の内容に関して、旧版のIntCal98との違いなどをまとめて検討した。さらに、IntCal04 がカバーする26,000 cal BP を超えて、古い暦年代領域をどのように扱うかを問題にした。特に人類学においては、ヨーロッパにおけるネアンデルタール人からクロマニヨン人への入れ替わりに関する正確な編年が今まさに問題になっている。30,000 BP、40,000 BPといった14C年代値が得られた場合、これらの暦年較正は、どのようにしたらよいのか。Radiocarbon国際誌では、14C calibration の特集号(vol.46 No.3, 2004)では、”NotCal04”として、IntCal04 を超える年代領域の問題点が論じられているが、まだ国際的な合意は出来ていない。この様な観点から話題提供があり、参加者の活発な議論があった。

 今後の委員会の活動として、次回は、“弥生時代の始まりがBC10世紀に遡る”という問題に関連して、樹木試料の高精度年代推定法として盛んに利用されるようになった14Cウイグルマッチングに焦点を当てて、公開シンポジウムを開催する計画である。多くの会員の参加を期待する。

 このページのトップへ


第四紀学会最新情報のページへもどる