日本第四紀学会
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だいよんき Q&A


文章に記されたものでなく、土砂災害や天災などの明らかな最古の遺物やそれの直後の復興の跡で一番古いのはなんでしょうか。火山噴火や地震、津波の跡は残っていますか。

 

 日本列島で生活する人々が文字によってさまざまな出来事を書き記すようになる前、すなわち先史時代の災害痕跡としては、火山噴火、地震、津波などによる災害の痕跡が列島各地で確認されています。

 その中で最も古い事例としては、最終氷期の最寒冷期直前の約3万年前に起きた姶良カルデラの超巨大噴火の事例があげられます。この噴火では、破格の規模の巨大火砕流が発生し、噴出源から半径約90kmにも及ぶ南九州本土の大半が厚く埋積され、最大で層厚約150mを測る火砕流堆積物はシラス台地と呼ばれる広大で不毛な大地を形成しました。同時に上空に立ちのぼった火山灰は、風に送られて日本列島の広域に降下堆積しました。この噴火による森林植生をはじめとする生態系への影響は甚大だったと推定されています。火砕流堆積物に覆われた範囲の人類はもちろん生態系も壊滅したと推定されますが、火砕流が及ばなかった地域では、ナイフ形石器文化を携えた人類が噴火後も活動を続け、シラス地帯の植生の回復と動物の再進入に伴って、火砕流堆積エリアでの活動を再開させたと推定されます。噴出源から東北東約20km地点に位置する鹿児島県桐木耳取遺跡では、この噴火による火砕流被災後の生態系回復後に、ナイフ形石器や剥片尖頭器を携えた人々が活動した痕跡を確認することができ、同遺跡のナイフ形石器第T文化層の礫群中炭化物の14C年代から得られた較正暦年代を参考にすると、生態系の回復と人類の活動再開には、約1000年を要したと推定されます。

 縄文時代の事例もあげると、完新世の温暖化傾向にあった縄文時代早期末、約7300年前に、九州南端から約40kmの海底にある鬼界カルデラで超巨大噴火が起こっています。鬼界アカホヤ噴火と呼ばれるこの噴火で生じた大規模火砕流は、噴出源から半径約80kmに及び、海を渡って南九州本土にも到達しました。また、上空に立ちのぼった細粒火山灰は風に送られて広域に広がって東日本にも降灰が及びました。火砕流に直撃された南九州の南半部においては、定住生活が再開されるまで数百年間を要したことが推定されています。またこの超巨大噴火に随伴した巨大地震による液状化と津波の痕跡も確認されています。

[文献]

  • 新井房夫 編(1993)火山灰考古学,古今書院
  • ヌ畑光博(2016)超巨大噴火が人類に与えた影響,雄山閣
  • 町田 洋・新井房夫(2003)新編火山灰アトラス−日本列島とその周辺,東京大学出版会
  • 町田 洋・森脇 広 編(1994)火山噴火と環境・文明−文明と環境V−,思文閣出版
  • 横山勝三(2003)シラス学,古今書院

回答者 : ヌ畑光博
2017年8月28日掲載

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